韓国財閥への批判、中小の成長阻害が原因金基元・韓国放送通信大教授朴槿恵政権 試練の船出 関連インタビュー
2013/2/27 3:30
ニュースソース
日本経済新聞 電子版
韓国の財閥グループは成長と雇用を支えて社会の中で圧倒的な存在感を放ちながら、2012年末の大統領選挙では批判の矛先となった。なぜ嫌われ、今後の財閥経営はどうなるのか。韓国放送通信大経済学科の金基元(キム・ギウォン)教授に聞いた。
――韓国の財閥は経済浮揚に貢献してきましたが、国民からは人気がありません。
「財閥には2つの側面がある。1つは韓国の高度成長のけん引車という光と言える面だ。もともとはいずれも小さい企業だったが、今ではサムスン電子がソニーをしのぐ。造船業もそうだ。海外の空港でサムスンとか現代自動車の広告を見て、韓国人は自負心を持てるという良さはある」
「韓国財閥の2、3世は能力の有無にかかわらずトップになる」と語る金教授(ソウル市内)
――弊害は何ですか。
「経済成長の中で独占の問題が発生してきた。例えば中小企業を納品価格で圧迫している。日本ではトヨタ自動車と協力会社との双方が成長する『同伴成長』が進んでいる。だが、韓国では中小が成長しようとすれば財閥が事業と技術を奪ってしまう。韓国の中小が中堅へ、中堅から大企業へと成長するケースはまれだ」
「財閥が政治家や官僚に賄賂を渡すケースもある。1980年代ぐらいまでは、良い面も多かったが、それ以降は悪い面が表面化し、国民も財閥に批判的な考えが強くなってきた」
――昨年12月の大統領選挙は財閥批判が強まるきっかけになりました。
「選挙では候補者が財閥批判をアピール材料に使った面がある。韓国社会では所得格差で二極化が進んでいるうえ、経済成長率も低いからだ。盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の時代は成長率が4~5%だったが、李明博(イ・ミョンバク)政権は2~3%となった。まだ韓国は低成長に慣れていないので不満が出る。不満を誰に向けるのかというと、まず政治家、次に財閥。それで批判の声が大きくなる」
――韓国で技術力を持つ中小・中堅企業が育たない理由は何ですか。
「中小の競争力が弱いのは、従業員の勤続年数が大企業に比べ短いからだ。熟練した技術を蓄積できない。賃金の差、勤労条件の差が大きすぎて、中小企業にいる人材はきっかけがあれば離職してしまう。大企業との格差を埋めるのは不可能だ」
「87年の民主化以前は大企業と中小の差があまり大きくなかった。民主化が進んで、大企業の力も大企業の組合の力も強くなり、中小との差がだんだん広がった」
――解決策はありませんか。
「間接賃金を通じて差を縮めることだ。財閥企業のような手厚い福利厚生は中小にほとんどないので、国家の次元で強化する。これが福祉と呼ばれている。具体的には教育とか医療とか住居を指す。そうすれば実質的な賃金の差が縮小し、中小社員の勤続年数が長くなり、熟練の技を蓄積し競争力が強まる」
「朴槿恵(パク・クネ)政権は、ある程度福利厚生の改革をすると思うが、本当に賃金格差が縮まるようにできるかは疑問だ」
――財閥の経営は、長期的にどう変化していきますか。
「サムスン電子が強くなった理由には多々あるが、李健熙(イ・ゴンヒ、会長)氏があまり事業に干渉せず(創業家でないサラリーマンの)専門経営者に権限を委譲したことが大きい。何でも独りでわかるはずがない。李健熙氏が直接手掛けたのはイベントだ。サムスン製品と日本の製品を比べたり、不良品を集めて燃やしたりした」
「財閥では、専門経営者の力が徐々に強くならざるを得ない。創業家は大株主として株主総会で人事案に関与するようになっていく。時間はかかると思うが、そういう流れにあるのではないか」
(聞き手はソウル支局、尾島島雄)
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